企画展《北斎バードパーク》関連 細川博昭 × 山際真穂 スペシャル対談 「江戸時代の鳥ブーム ―北斎一門の描いた鳥」

ダイジェスト3/3
『北斎漫画』に描かれた鳥たち

葛飾北斎『北斎漫画』三編 風鳥 ほか
すみだ北斎美術館蔵(通期)
 
山際 :こちらは北斎が描いた絵手本の『北斎漫画』で、本当に北斎がありとあらゆるものを描いている作品です。
 
山際 :最初にこの絵(上の図)を見たときに、そこに比翼鳥(ひよくのとり)という頭が二つある鳥が描かれているので、『北斎漫画』には(実在の鳥と)想像上の鳥が混ざって描かれているんだなと思っていました。比翼鳥のほかにも、風鳥とか烏鳳(おなが)というのは美しすぎるし、名前も「風鳥」で風の鳥なので、当時の伝説の鳥なのかなと思っていたんですけれども、子どもと鳥の図鑑を眺めていたら、いたんですよ、これが!
 
  
※動画本編より
 
  
※動画本編より
細川 : ​はいはい(笑)。
 
山際 :これ想像上の鳥じゃなかったんだと思って。それで調べていったら、この烏鳳(おなが)として描かれているような、こんな尻尾の長い鳥も実際にいるんですよね。
 
細川 : ​いわゆる日本のオナガではなく、
 
山際 :サンコウチョウですよね。
 
細川 : はい。
 
山際 :また、ヒヨクドリという鳥も図鑑に出てきて、尻尾の形がくるくるくるっと巻いているような感じで、でも(北斎の絵のように)頭は当然2つはないんですけれども、本当にこういう鳥って実際にいたんですね。
 
細川 : ヒヨクドリに関しては中国の鳥の図鑑に同じような形で載っています。風鳥もそうですけども、それを日本の文献に持っていくときにコピーして、解説もそのまま同じようにつけた、ということがあります。
 
細川 : 風鳥に関しては、江戸時代ってオランダ船とかが日本にたくさんいろんなものを持ってきていて、オランダとだけ、長崎を通して交易をしていましたよね。鳥もたくさん日本に運んできていたので、江戸時代の鳥文化として、お金のある人が外国の鳥を飼うということがありました。その中で東南アジアにいるいわゆる風鳥は、死んで剥製になった状態で日本に持ってこられて、(そのときにはすでに)脚を切られていて、体と翼しかなかった。そうすると、元々中国とかの風鳥の説明にある「常に空中を漂って」…という部分にマッチしたので、日本でもそのような説明が載るようになった、ということがあります。
 
山際 :確かに(『北斎漫画』には)脚は描かれてないですね。なるほどそういう背景があったんですね。
 
山際 :サンコウチョウは本当にこんなに長い尻尾なんですよね?
 
細川 : (『北斎漫画』では烏鳳と記されている)サンコウチョウは、すごい(尾羽が)長くて、なかなか飛びにくそうにも見えますし、シッポ(尾羽)が長いと敵に捕まりやすくなって死ぬ確率も高くなるけども、それでも生きてるということは、シッポ(尾羽)が長いのは優れたオスということで、メスがオスを選ぶときに、シッポ(尾羽)の長いものを選ぶんです。
 
山際 :あーなるほどなるほど。優れたオスの証として、尻尾が長いオスがどんどん残っていくっていうことですか?
 
細川 : シッポ(尾羽)が長いオスを選んでいく過程で、どんどん長くなっていきました。
 
山際 :へえ~!この比翼鳥(ひよくのとり)というのは、中国で画像が作られていく過程では、本当に存在するヒヨクドリをやっぱり参考にしたんですかね。
 
細川 : 元々古い伝説にいた鳥で、もちろん誰も見たことがないので、日本に来たときも想像して描かれて、人によってはその想像がどんどん膨らんでいって全然違うフォルムになったりもしたんですけれども。
 
山際 :なるほど。この(『北斎漫画』に描かれている比翼鳥は)尻尾が実在のヒヨクドリとそっくりじゃないですか。実在するヒヨクドリのあのくるくるくるっていう尻尾に。
 
細川 : そうですね。
 
山際 :当時の中国の人とか日本の人って、実際のヒヨクドリを見れたんですかね?
 
細川 : どうでしょうね。
※ヒヨクドリは江戸時代に飼鳥として輸入されていたそうです。(出典:『図説鳥名の由来辞典』柏書房)
 
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