各章の見どころと構成
本展のポイント
ポイント1:当時の暦は今と異なり毎年変わるため、複雑なものでしたが、生活上必要に迫られて制作されたのが大小
ポイント2:年始に友人や得意先に配る現在の年賀状のような風物詩となり、江戸で大流行
ポイント3:より豪華なデザインを求め絵師に発注する事で“粋”な作品が多く誕生
構成
【第1章 大小を楽しむために】
〜第1節 江戸の暦~
〜第2節 大小のパターン~
〜第3節 数字以外のもので月を表す大小〜
【第2章 葛飾派の大小】
【第3章 大小に挑戦】
【第1章 大小を楽しむために】
日本では、明治6年(1873)の改暦以前は太陰太陽暦(旧暦)を採用していました。旧暦では大の月(30日)、小の月(29日)が毎年変わるため、大と小の月を示した絵が描かれた摺物が作られるようになりました。現在は、絵暦または大小と呼ばれています。大小は、単に数字で示すだけではなく、ユーモアを交えて制作されました。現在では馴染みのない大小を楽しむために、まずは江戸時代の暦法についてみていきます。さらに、大と小の月数の隠し方をいくつかのパターンに分類して、わかりやすく展示します。
〜第1節 江戸の暦~
ここでは現在とは異なる江戸時代の暦法と、それに基づいて作られた暦を紹介します。
伊勢の暦師が発行した地方暦で、伊勢神宮の御師が全国の檀家に大麻(お札)とともに配ったため、江戸時代で最も代表的な暦です。御師とは、信者のために祈祷を行ったり、参詣の際に宿泊・案内などの世話をしたりする神職のことです。冒頭にはその年の方位の吉凶や各月の大小が記されています。正月からは各日の干支や暦注と呼ばれるその日の日時や方角の吉凶が記されています。
〜第2節 大小のパターン~
大小に隠された主な月の数字の隠し方にはパターンがあります。これを次の5つに分類しました。
A:文字絵の大小
B:文字化の大小
C:月数入り絵の大小
D:順番の大小
E:文中の大小
この5つのパターンを知れば、本展で展示されている大小が読み解きやすくなるでしょう。
絵師未詳「角大師」 すみだ北斎美術館蔵(通期)
読み解き!
角大師が「正、三、五、十一、八、六」。1、3、5、6、8、11は、天明6年の小の月となり、「A:文字絵の大小」のパターンです。角大師は、平安前期の天台宗の僧、良源が角の生えた鬼となった姿のことです。疫病が流行した際に、良源は人々を救うために鬼の姿となって疫病を追い払ったといわれます。そのため、角大師が描かれた護符は、疫病などの厄災除けのお守りとされました。
読み解き!
兎の絵。狂歌に「うさき」。煙草盆に「大のや」。兎の着物が「五、十二、三、二、八、十一、正」。卯年で1、3、5、8、11、12が大の月は、文化4年丁卯【ひのとう】となり、「A:文字絵の大小」のパターンです。窪俊満は、北尾重政の門人の浮世絵師で、狂歌や俳諧なども手掛けた多芸多才の人物として知られています。画面左上の土手の向こうに鳥居の頭だけがみえているのは、隅田川東岸の三囲神社(墨田区向島)です。
〜第3節 数字以外のもので月を表す大小〜
第2節で紹介した5つの大と小の月の隠し方のパターンでは、月数を数字で示すことが多いですが、数字以外で月数を示す場合もあります。
睦月などの月の異称や、雛祭や端午の節句などその月を代表する行事、風物を隠し込んだ大小が作られました。
現代となっては、その景物が何月を示すか難解なものも多く、これらの大小を読み解くには頭を抱えてしまうことも多いです。
読み解き!
初めの狂歌は餅の名前で月を表わしています。
「大、すわり(座り餅=鏡餅→正月)、菱(菱餅→雛飾に供える→3月)、かしわ(柏餅→端午の節句→5月)、いも団子(芋団子→芋名月は八月十五夜の名月→8月)、玄猪(亥子餅【いのこもち】。旧暦10月の亥の日の祝いの亥猪の際に食べる餅→10月)、いわひ(いわひ=祝い→七五三の祝い。祝餅は七五三の際に食べるお祝いの餅か→11月)、かびたりの餅(川浸り餅。陰暦12月1日に行う水神祭の川浸りの日につく餅→12月)」。二首目の狂歌に「二、小、四、六、七、重ねて(7を重ねる→閏7月)、菊(菊の節句=重陽の節季→9月」1、3、5、8、10、11、12が大の月、2、4、6、7、閏7、9が小の月は、寛政9年となり、「E:文中の大小」のパターンです。
【第2章 葛飾派の大小】
明和(1764-72)初期に、大小の交換会が開かれるほど大小が流行します。ユーモアやウィットのある大小の発想の考案者は、絵師ではなく制作を依頼した人物と思われますが、最終的にどのような絵で表現するかは葛飾北斎などの絵師に任せていたと考えられます。北斎は、数え90歳の生涯の中でも宗理様式の時代と呼ばれる寛政6年(1794)から文化元年(1804)頃に大小を最も多く製作しています。北斎やその一門が携わった大小を読み解きながら、その趣向をお楽しみください。
読み解き!
狂歌に「酉」。門の上に鶏。娘の帯に「十、正、三、七、九、十一、十二」。酉年で、1、3、7、9、10、11、12は、文化10年癸酉【みずのととり】の大の月となり、「C:月数入り絵の大小」のパターンです。
読み解き!
左の作品は、葛飾北斎「鶯と金太郎」という作品ですが、よくみると金太郎の横に置かれている鉞には“小”という文字と、刃先に「正、五、六、八、十、十一」の文字が!1、5、6、8、10、11の小の月は、寛政11年。この年に配ったものということがわかります。「C:月数入り絵の大小」のパターンです。
【第3章 大小に挑戦】
ここまでさまざまな大小に触れてみて、どこに月数が隠されているか読み解いてみたくなってきたのではないでしょうか。
本来大小は、その年に配られるのでその年の月数を知るためのものですが、現代の私達は大小に隠された月数を読み解くことで、それが何年に制作されたものかがわかります。ぜひ、隠された月数を読み解いて、何年の大小か解き明かしてみてください。
大小に挑戦!
本作品は、記されているように弘化5年戊申【つちのえさる】(1848)の大小です。 申年のため、猿のお面が描かれています。本作品から弘化5年の大の月と小の月を読み解いて、以下より選んでください。
①大の月:1、3、4、6、8、12。小の月:2、5、7、9、10、11。
②大の月:2、5、7、9、10、12。小の月:1、3、4、6、8、11。
③大の月:2、5、7、9、10、11。小の月:1、3、4、6、8、12。
前期に展示していますので、答えはぜひ会場でご確認ください。
作品リスト
企画展「読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー」作品リスト
観覧料
|
12/18~2025/3/2 |
---|---|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
観覧券については、日時指定によるオンライン購入が可能です。
ご来館当日に受付に並ばずにご入館いただけますので、下のリンクからぜひご利用ください。
※販売数に限りがありますので、あらかじめご了承ください
公式オンラインチケットサイト
*団体でのご来館は、当面の間、受付を行いません。
・中学生、高校生、大学生(高専、専門学校、専修学校生含む)は生徒手帳または学生証をご提示ください。
・65歳以上の方は年齢を証明できるものをご提示ください。
・身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳などをお持ちの方及びその付添の方1名まで、障がい者料金でご覧いただけます。入館の際は、身体障害者手帳などの提示をお願いします。
・観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスもご覧になれます。
前売券
本展前売券(通常料金の20%引き)を以下の期間で販売いたします。
販売期間: 2024年9月18日(火)から2024年12月17日(火)までの開館日
販売場所: すみだ北斎美術館 1階エントランス受付
展覧会リーフレット
展覧会の構成に沿って、オールカラーで見どころをたどることができるリーフレットです。タイトル | 読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー |
価格 | 350円(税込) |
形態/ページ数 | A4サイズ全8ページ |
発売日 | 2024年12月18日(水) |
販売場所 | すみだ北斎美術館1階 ミュージアムショップ |
通信販売でのご購入はこちら